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  第二話 初めての運転

 
俺が5歳の時、家に220Sという跳ねのついた黒い車と、6Vの白いカブト虫があった。
(このカブト虫も強烈なインパクトがあり、コイツも生きていると思っていた。)
その頃の俺は既に車が大好きで、ある病気にかかっていた。

「運転がしたい・・・!!」


お袋が出かける時は必ず同乗し、親父が会社に行く時は姿が見えなくなるまで
見送った。それこそ運転の方法や、エンジンのかけ方(チョークレバーの引き方
から、その時のスロットルの開度まで音によって車種別に聞き分けていたと思う)
まで熟知しており、オートマ車なら言葉でこそ知らなかったが、クリープ現象を知
っていた。




そんなある日、いつもの日課でお袋が買い物に行く時間になった時、電話が
かかってきた。電話の内容を聞いていると、仲の良い友達だった。
長電話になる・・・

「チャンス!!」

俺はお袋が電話をしているのをいい事に、
引出しから車の鍵を出し、ポケットに入れた。
クッションを2つ抱え込み、駐車場まで猛ダッシュ!
跳ね上げ式の駐車場の扉の戸ってをひねり、
バネ仕掛の扉を上手に跳ね開けた。

「ついにこの時が来た!」

あまりにもの嬉しさで全身が震えたのを今でもはっきり覚えている。

ドアを開ける為に鍵を差し込み、メッキのボタンを押した。
(このボタンが硬く、両方の親指で力いっぱい押したのを覚えている)
運転席に座り、「ドスッ」という重いドアを閉めた。

ペタルに足が届かないだろうと思いクッションを2つ持ってきたが、
ペタルに足を合わせるとのけぞった姿勢になり、シートの前の淵に
かすかにお尻が乗る程度で、全く前が見えない!
クッションは問題外!。

「誤算だ!」

しかし納得のいかない俺は強行突破を選んだ。斜め45度上しか見えず、
コンクリートの屋根と壁しか見えなかったがセルを回した。

「ウルルルル、シューン」
「ヤッタ!」

当時の車庫は家の敷地内に私道があり、その道に対して直角にあった。
車は車庫から直角に右に出さなければならない。
要は車庫から出す時、空を見ながら勘で右にハンドルを切るのだ。
俺はいつも後部座席に乗りながら、何十回とイメージトレーニングはしていた。

「出来るに違いない!」

ブレーキを踏んだままコラムシフトのレバーをDレンジまで下ろし、
左側の丸いパーキングレバー解除のツマミを「パスッ」と引いた。
車の尻がカクンッと気持ち下がった。

人生においてこんなに緊張したのはこの時と、
21歳の時トイレが我慢できず、あるビルの1階に飛び込んだら
ヤクザの事務所だった時の2回くらいである。(この時は少しチビッタ!)

恐る恐るブレーキの足を緩めると動き出した。
お袋が車を車庫から出す時、車庫の中でハンドルを
1度左に切るのも正確に真似した。(内輪差!)
少しずつ空が見え、「今だ!」と思った時、
白いグリップのやたらと大きいハンドルを目いっぱい
右に切ったまま少しずつ右足に力を入れていった。

車が止まった瞬間、ブレーキを踏んだままシフトをPレンジまで上げ、
左足で「カチカチッ」とサイドブレーキを力いっぱい踏んだ。
慌てて車から降り、自分の出来栄えを確認した。

道幅3m位の私道の真中に止まっていた。
お袋はいつもこの状態で暖気していたが、
俺はていねいにもハンドルをセンターに戻した。     完璧である。

5分位したらお袋がやって来た。
「真介!ベンツの鍵知らない?あら、だれか出してくれたの?」
さも得意げに「僕!」と言ったが、全く信用していない。

当時の家は色々な人が出入りしていたので
きっと誰かが出してくれたのだと思われた。


俺はその日一日中ニコニコしていた。



今までこの話は俺の家内しか知らない。
今年の初め、お袋にその話をしてみたら、「そんな事あったかしら?」。

やっぱり覚えていない。

「でも後部座席にクッションがあった日があったわ。」



まぎれも無く、俺である。
 


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